りょー&ナベやん
中川八洋(やつひろ)著
『大東亜戦争と「開戦責任」 近衛文麿と山本五十六』
(弓立社、平成12年刊)
この本を読んで衝撃を受けたのだが、日本の昭和前期の悲劇は、
何かにつけ首相近衛文麿に端を発しているのだ。
昭和12年の盧溝橋事件のあと、口では「戦線不拡大」を唱え
つつ、じつのところ軍隊増派を着々と推進したのは近衛文麿首相
だった。
中華民国の首都南京を攻略させたのも近衛なら、その後 蒋介石
政権を相手にせず、と宣言して、和平の道を閉ざしたのも近衛文
麿首相。
昭和13年に国家総動員法を成立させて、日本のスターリン式
社会主義化を推進したのも近衛文麿首相。
昭和15年に「大東亜共栄圏」構想を発表し、大政翼賛会を発
足させて議会制民主主義(=政党制)政治に終止符を打ったのも
近衛文麿首相。
日本史の一大汚点「日独伊三国軍事同盟」を結び、かつ終戦交
渉をソ連経由で行うという愚策の原因を作った「日ソ中立条約」
を結んだのも、近衛文麿首相だった。
米国との対決を決定的にした昭和16年の南部仏印(ベトナム
南部)進駐も、近衛文麿首相の仕業だ。
■ 昭和史の収斂(しゅうれん)に向けて ■
近衛文麿は、みんなに守られて、いまだに善玉である。
米国は、極東軍事裁判で東条英機を悪玉の筆頭に仕立てた都合、
今さら近衛文麿を持ち出すことはしない。
考えてみれば、近衛もルーズベルトも、スターリンにいいよう
に操られたことでは、同じ穴のむじなである。
日本の保守勢力が近衛文麿を守るのは、近衛が皇室に血筋の近
い存在だからだ。
日本の皇室は、じつは かぎりなく藤原家であるから。
そして、日本の社共勢力が近衛文麿をまもるのは、近衛こそが
親ソ連の巨魁であり、元朝日新聞記者のスパイ尾崎秀実(おざき・
ほつみ)と悪魔のワルツを踊った仲だからだ。
そして、中国・韓国・朝鮮が近衛文麿のことをとやかく言わな
いのは、単純に勉強不足のせい。
あれほど「南京大虐殺」を声高に非難する中国が、日本の南京
攻略時の首相 近衛文麿 を槍玉に上げないのは、日本史によほど
無知なのだろう。
いまだに史観の対立で行き場が定まらないように見える昭和史
は、近衛文麿批判の開花によって収斂を始めるだろう。